『玉講座その四・実技編』  大駒研博士一年  広瀬雄二  既にバンクショットがなんとなく決まるようになったの で、段々面白く感じて来て自信もついて来ました。しかし、 自分ではかなりうまくなったと思うのに、一緒に撞いてい る、それほどうまくはない友達にあまり勝つことができな い。そんなはがゆい思いをしたことはありませんか?一体 何がいけないのでしょう。  どんな競技事でもそうですが、トップクラスには「うま い人」というのと「強い人」というのがいて両者は違いま す。もちろん相関はありますが、強い人は必ずしも一番う まい人ではないのです。このことは初心者を卒業した段階 から既に当てはまります。ある程度の腕を持った人が使う ことのできる、勝つためのテクニックとしてどのようなも のを思い浮かべますか?セーフティ(相手が狙うのが困難 となるように外すこと)でしょうか。それとも、9番を入 れれば勝ちなので7番か8番あたりでわざと外して相手に 8番まで入れさせるという手でしょうか。もちろんこれも 効果的な方法ですが、慣れないうちに使うとどうしても消 極的になってしまって実力向上の妨げになりますし、面白 くありません。また、勝負にこだわるあまり、これみよが しにセーフティをされたら相手もあまり楽しくは感じない でしょう。  さてそんな時にはビュッヒェルヒェン九十年度版を思い 出しましょう。そこにある私の記事には   ・もっとも楽にかつ安全にネクストの取れる方法はど    れだろうか?   ・仮に的玉をポケットできなかったときに、残り玉が    相手に対して難しくなるポジションをどのように作っ    たらよいだろうか? とあります。玉講座の初回で軽く書いたこのことが実は、 勝つための一番の肝だったのです。今回はこのことに関し て詳しく説明します。前回同様図が無いのでかなり苦しく なると思いますが、気にせず頑張って行きましょう。 【一.安全なネクスト】  押し玉と引き玉のようにキュー先で手玉のコントロール をしてネクストを取ることは難しいという説明は、初回の 記事で致しました。手玉が、運動量保存の法則にしたがっ て的玉に当たって角度を変える仕組みを利用する方が良い ということなのですが、それでもやはり力加減と言うのは 難しいものです。初回の記事に「いい加減な手玉のコント ロールに絶えうるビジョン」とありますが、これはどうい うことでしょうか?  恒例となりましたが、ビュッヒェルヒェンの冊子をテー ブルに見立ててください。そしてほんの折り目と平行に、 右のページを二分割するような縦線を想定してください。 その縦線を四等分する点を打ちます(※一)。三つ打った 点のうち、一番上の点の上に8番が、一番下の点の上に9 番があるとし、手玉は8番と同じ高さで、ビュッヒェルヒェ ンの折り目の位置にあるとします。9番は当然右下のポケッ トに入れるのが最も確実ですから、8番を入れた後に手玉 があるべき位置は、右下のポケットから9番に向かう線分 の延長線上ということになります。この、9番を入れるの に都合良い部分を、仮にネクストエリアと呼ぶことにしま しょう。  さて、この状態で玉の出し方は二つ考えられます。 (一)手玉を押して2クッション (二)手玉を引いてノークッション  前者は8番を狙う時にやや手玉を押し(※ニ)、右下四 十五度に手玉を走らせ、最初にページの右端の上から三分 の二付近(※三)で反射させ、次に右ページの下端の右か ら三分の一(※四)で反射させ最後にテーブルの中央付近 に向かわせる方法です。  後者は8番を狙う時に手玉を引き、直接ネクストエリア に入るように撞く方法です。  それでは両者の難易度を比較してみましょう。(一)は キュー先のコントロールもやさしく、球どうしの自然な反 発を利用するので力加減もしやすいのですが、手玉の航続 距離が長いので、その分力加減が難しくなり、トータルと しては、それほど正確な力加減は期待できません。(二) は引き玉なのでキュー先のコントロールが全てです。ちょっ とした撞き方の違いで、手玉の帰る方向(角度)と距離が かなりずれてしまいます。しかし、(一)に比べて手玉を 走らせる距離が短いので、それほど不利とは言えません。 従って、微妙なシチュエーションの違いを考えると、両者 は難易度の点では決定的な差はないと見てよいでしょう。 しかし、これはあくまでも成功することを前提とした議論 です。では失敗することを前提とするとどうなるでしょう。 この場合の失敗とは、手玉を撞く時の力加減が合わなかっ たことだけを対象とし、8番を外してしまったり、といっ た場合は考えません。  まず(一)について。弱すぎた場合は、9番の右側、あ るいは下側に手玉が行ってしまい、右下のポケットに狙う ことができなくなってしまいます。それ以外のポケットは どれも遠かったり狭かったりするので、そのポケットと的 玉と手玉が、運良く直線上に乗らないかぎり9番インは難 しいでしょう。逆に、強すぎた場合はどうでしょう。手玉 が9番からどんどん遠ざかるので、強ければ強い程9番を ポケットできる確率が落ちます。しかし手玉が二回クッショ ンに跳ね返った後に進む方向は、右下のポケットと9番を 結ぶ直線とほぼ平行なので手玉がどんなに離れても、9番 を狙う角度はほとんど変わりません。つまり、距離的には 難しくなるが、角度的には難しくならないということです。 もっとも、撞き方が猛烈に強く、手玉が左ページの左端付 近にまで行ってしまうようだと話は別ですが、テーブルを 一回りするのは相当強く手玉が出た時ですから、初心者を 卒業した段階では考えなくとも良いでしょう。  次に(二)について。本当に弱すぎた場合は、手玉が8 番に当たる前に、テーブルとの摩擦で引き回転が消えてし まい、(一)の手玉の進路とほぼ同じになります。8番に 当たる時には手玉の勢いがなくなっているので、右の短クッ ションに当たった直後に止まってしまう場合がほとんどで しょう。これは最悪のケースですが、さすがにこのような ミスショットはあまりないでしょう。(普通に)弱すぎた 場合は手玉の帰って来る角度が右方向にずれ、さらに手玉 の戻る距離が短くなります。従って8番に当たった後の手 玉は真下に近い方向に進み、しかもネクストエリアに到達 する前に止まります。結果として手玉は、8番のあった位 置と9番の中間付近に止まるでしょう。この位置では9番 はバンクショットで右上のポケットを狙うか、かなり薄い 角度で右下のポケットをわなければならず、成功率は大き く低下します。逆に強すぎた場合は、手玉の戻る角度はあ まり変わりませんが(※五)、手玉はネクストエリアを通 り越して左ページの下端中央付近に跳ね返り、その付近で 止まります。この場合手玉が的玉に当たった直後に進む方 向は、右下のポケットと9番を結ぶ直線に対して直角方向 です。つまり、手玉が強ければ強い程9番を狙う最適な角 度からはずれて行くことになります。  さて、どちらが安全かお分かりでしょうか。(一)、 (二)ともに、弱すぎた場合は右下のポケットを狙えなく なってしまうので、9番を入れられるかどうかは運任せと なります。ところが強すぎた場合は、(二)は絶望的なの に対し(一)は少々遠いとは言え、角度的に易しいので希 望が残っています。     ・    ・    ・    ・  今紹介した例は、ネクストエリアに手玉を運ぶ方法が二 通りあるというものでしたが、次の玉を入れるべきポケッ トが複数ある場合などがあり、これもネクストの取り方が 複数考えられます。このような場合には、「強すぎた場合」 「弱すぎた場合」それぞれについて、どちらが被害が小さ いかを考えるべきです。一般的に、手玉の走る方向が次の 的玉とそれを入れるポケットを結ぶ直線に平行に近い方が 良いとされています。理由はもうお分かりですね。このよ うな狙い方を心がけると、多少の力加減のずれは許される という安心感から、ミスショットの割合が減少し、どんど ん自身がついていきます。 【二.相手に対して厳しい残り玉】  では、的玉を外してしまった場合の残り玉について考え ましょう。外すことを前提としているので、いささか消極 的ですが、どんなに上達してもポケットすることのできな い難球はあるものです。このような時には、無理してポケッ トインを狙うよりも外した時の玉の配置を優先して撞いた 方が賢明です。  このような時は撞き終わった時点での自分の手玉の位置 と、外れてしまった的玉の位置が遠くなるような狙い方撞 き方をするのは言うまでもありません。狙いが外れるのに、 外した時の的玉の位置が分かるというのはなんとも奇妙な 感じがしますが、難球を狙って外す時に薄めに外すか、厚 めに外すかはそれまで経験からなんとなく分かるものです。  今度は逆に、比較的近い玉でやさしめの玉を狙う場合の ネクストですが、このような時に「次の玉も、今狙ってい る玉と同じポケットに入れるようなネクストを計画する」 ことが防御につながります。つまり今狙っている玉を右上 のポケットに入れようとしている場合、次の玉も右上のポ ケットを狙うようなネクストを採用すると言うことです。 上達すれば当然近い易しい玉はほとんど外す事はなくなり ますが玉にポケットがシブ(※六)く穴前で的玉が止まっ てしまう事があります。そのまま相手に順番が渡ると外し た玉を難なく入れられてしまうのですが、手玉が次の玉も 同じポケットを狙うべき位置にある場合は次の玉が当該ポ ケットと外した玉を隠す形となり、相手はこれを入れるこ とが困難となります。もっとも、このような事を考えて玉 を撞き実際に外してしまったとして、筋書き通り事が運ぶ とは限りませんし、常に「同じポケットを狙う」ネクスト を計画できるわけではありません。大切なのは残り玉が厳 しくできる状況であればそれを保険として有効に活用する という貪欲な精神です。     ・    ・    ・    ・  さて今回の内容でネクストの取り方の作戦的な部分は説 明しました。他にも細かい点はたくさんあるのですが、そ れは経験を積むにつれ自然と身についていくと思います。 昨年の結びで「ひねり」に付いて説明できなかったとある ことに今気づいたので、来年は「ひねり」について考察し てみたいと思います。 ※一.本当に印を付けて読むと分かり易いと思います。 ※ニ.やや右にひねるとクッションに当たった時に素直に    反射します。 ※三.つまり短クッションの上から三分の二。 ※四.つまり長クッションの右から六分の一。 ※五.ある程度以上引き回転があれば、その回転方向に進    むから。 ※六.少しでも玉がポケットの端にからむとガタガタといっ    てそこで止まってしまうような入れにくいポケット    をさして言います。